2021年度テーザー級西日本選手権優勝チームの村山 豊さん(琵琶湖)からレポートをいただきました。

テーザー級西日本選手権 総合成績

 

7月11日芦屋で開催された西日本選手権に、久々に参加させていただきテーザーを満喫しました。テーザー協会の皆様、そして運営スタッフの皆様、有り難うございました。

レースレポート作成の依頼をいただきましたので、感謝の念からも快くお受けしました。

 

さて、今回私は秋山氏のクルーとして参加させていただきました。秋山さんと言えば、私が20歳でヨットを始めた頃、レーザー級のトップに君臨されていた、私にとってはまさにレジェンド的存在です。そしてエントリー済のワールドマスターズゲームに向けて初めての練習、レースであり、今回のテーマは、緊張感を切らさず、まず粗相しないことでした。

風は南西で安定し、レグは比較的短めでしたので、今回は勝因よりもテーザーに乗る時に注意している点(クルー/スキッパー)やレースに対する私の心構えについてレポートします。

そしてせっかくの機会ですので、レースに参加し感じたこともお伝えできればと思います。

熱心なテーザーセーラーの皆様の今後のセーリング活動に、何かヒントになれば幸いです。

少しクセのある内容になりますので、もしご気分を害された方がいたら申し訳ありません。

1. 今回の勝因

➀風速(波)と体重がマッチ ➁スタートが成功したこと

当日は風速3~5m/s中心で、チューニングを前日より少しパワフルにしたことが奏功。

また秋山氏のスタートテクニックでポジション取りから加速が決まり、フレッシュウィンドを走り続けることができたため、コンパスなしでも、比較的楽なレース展開となりました。

しかし上記①と②のどちらかが違っていれば苦戦し、結果は全く違っていたと思います。

2. テーザーに乗るときに注意している点

(1)極力、フネを揺らさない(ハル重量68kg/ペア合計体重2倍強)

  • コクピットの中にいるときは体と船を一体化させる。デッキと体の接地面積を増やす。
  • 特にフリーは不安定でバランスが重要、体は少なくとも3点で固定。(5点がベスト)

(2)タックでのロスを最小限にする

  • タックの最大リスク、最大ロスにつながるもの、それはトラベラー関連のミスです。
  • もちろん使い方によってはゲインしますが、レースとなれば圧倒的にロスが大きく、タックのロス分をカバーできるトラベラー効果は薄いと考えています。もちろん場面によっては必要ですが、皆さん持つイメージの2割くらいの使用ではないでしょうか。マイラーセールになりメインの長さが変わったようですが、考え方は変わりません。

(3)失速のタイミングを人より少しでも遅らせ、誰よりも早く加速する。

そして失速時のスピード差を小さく、MAXスピードそのものは普通でよしとする。

ここは少し詳しく説明します。

ヨットも乗り物なので当然、加速、減速、停止を繰り返します。

レース中も、常に加速、失速を繰り返しています。(風波次第ですが100回~200回?)

加速はさておき、失速する原因には、波、ヘッダーの風、動作ミスなどいろいろあります。

そこを練習してリスクを減らすわけですが、一つの考え方として、レースで勝つためには、人よりいかに失速を遅らせられるか、そして人よりいかに早く加速できるか、さらにライバル艇よりいかに失速の度合い(スピード差)を小さくできるかについて、クルーとしてできること、スキッパーとしてできることを、その時の立場で考えています。

失速時に関して具体的に言えば、失速する前に(アンヒールさせないように)中に入ることや、ジブとメインの間のスロットルが詰まらないように1cm単位でジブトリムする。

これだけでも十分です。加速はその逆となります。

そのためにはヒールしてからの反応では遅く、目線は前、10m先を見て予測(フリーでは20mくらい)します。

3. わたしのレースの心構え

(1)シンプルイズベスト

  • 練習していないからこそシンプルを追求し無駄、ハイリスクは割り切って排除

(2)感覚派だが細部に敏感

  • クルーでもスキッパーでも失速には敏感。
  • スピード変化には体で表現 (指ジブトリム、お尻5cmずらし、3より5点で体固定等)

(3)テーザーの特徴を他のクラス艇との違いから比較、理解する。

(4)今の自分のレベルを知る、欲張りすぎは禁物

(5)練習しない分、イメージによるこだわり

➀スキッパーとして

  • トラベラーは使わない(タックのロスの方が大きい。高さをかせがないコース引き)
  • マーク回航は人一倍拘る セールトリム ボートバランス(ヘルムで回す)
  • スローセーリングでスタートの成功率は格段に上がる。みんな流れるため
  • タック 横流れを少なく、いかに早く加速するか。

➁クルーとして

  • 風が弱い時 極力船は揺らさない
  • ブローを見てバランスをとる(目線上げる)→コースもひけるようになる
  • ジブトリム 加速、失速はジブと体で表現
  • クルーのバランスがとりやすいように艇をチューニング バランスのとりにくい艇はチューニングがおかしい(オーバーパワーかアンダーか)

➂チューニングの視点 

  • オーバーパワー以下の風 クルーがバランスを取りやすいかor窮屈でないか 
  • オーバーパワーの風 ほどよいパワーダウン(少しでも楽になるように)
  • 触れるところは触る。(フリーでは確実に戻せるか)  

【帆走前】                                                                         

ダイヤモンド サイドピン ジブタックロープ ジブハリ ジブクリュー

【帆走中】

バング アウトホール カニンガム センター ジブリーダー サイドテンション

4. 最後に

私は学生時代、今風に言うと二刀流、スキッパーでもクルーでも走れるセーラーを目指していました。テーザーに一生懸命乗っていたのは20年も前です。記憶力も衰え乗艇の頻度も少ないですが、乗る時はいつもこのようなことを考え、50歳を超えた今でも割と違和感なく乗れています。

5年前に15年ぶりに参加したプレワールドでは、クルーとして第1レースは1位でしたが、スキッパーはその日がテーザー初乗艇の会社後輩、教えながらのぶっつけ本番でした。

翌年の蒲郡ワールド本大会は、スキッパーとして第1レースの第1マークは3位以内で回航、フィニッシュラインで本部船にマークタッチし順位を落としましたが、スピードは十分勝負できていました。こちらもクルーはテーザー初乗艇かつレースは20年ぶりの会社同期で、教えながらのぶっつけ本番でした。いずれのレースも流石に2レース目以降は集中力も体力も続かず、それぞれ総合では最終8位と16位に終わりましたが、走らせ方については昔のイメージそのままで十分行けると手応えあり、自信に繋がっています。

普段練習もしていない、若くもない私が時々出てきてなんでちょいちょい前を走れるのか不思議ですよね。ワールド参加時に、私なりに分析とまではいきませんが強く思ったことがあります。せっかくの機会なので提言として、皆さんにこれだけは言いたいのです。

「みなさんトラベラー教の信者になっていませんか?」

信じるか信じないかはあなた次第です。もし興味のある方がいらっしゃれば、ご連絡下さい。

以上

 

■おまけ

くせあり理論

私の考え方は、トラベラーを完璧に使いこなせるのは、毎日練習している学生であってもトップ3までの選手と思います。なので私は練習時間が少ないので基本的にトラベラーは使いません。今回も秋山氏には、前日の練習の日には使っていたトラベラーを極力使わないで下さいということを提案しました。

ではなぜトラベラーが嫌なのかを言いますと、最終レグが片上りレグでまっすぐに走るだけなら良いですが、クルーだから感じるのか、タックをした時のロスが半端ないからです。そのロスがどれくらいあるか実感できれば考え方は変わると思います。

マイラーセールに代わって、セールの長さ、形が変わったとしても、極力使わないスタイルです。限られた時間です、再現性の低い高度な練習を止めて、全ての艇が今の50m100m前を走れば、フリート全体のセーリング技術も上がります。

練習とレース中の成功率の違いは必ず考えてください。くどいようですが、相当乗り込んで練習して、初めて高確率でレースでも再現できる完璧に近いタックができるとします。

完璧なタックとは、タックして1艇身遅れるくらいでイメージしてください。

練習時からタックする度に二人で点数をつけ、口に出すようにしてみたらよいと思います。

あくまでも練習のための練習ではなく、レースで競って、気持ちも焦っている時の成功確率を考えて動作を身に着ける。そして欲張りすぎないことも重要です。

<例題>

タック練習で10回中8回成功、2回はまずまずだったとして成功率80%としましょう。

ではレース中はどうでしょうか?(成功基準は同じ)

普通に考えて、成功率は、序盤、中盤、終盤とだんだん悪くなるでしょう。さらに競っていればさらに確率は低くなると思います。

平均的なところで、成功率はせいぜい10回中3回~4回ではないでしょうか。

次に、少し失敗したタックでどれだけロスするか(遅れるか)考えてみてください。

失敗の程度にもよりますが、2~3艇身(横流れも含んで考えます)でしょう。

これがトラベラータックだと、成功確率はさらに下がり、失敗したときのロスは5艇身以上になるでしょう。(そのロス感覚をつかむ練習は是非してください)

そして次に、上マークまでのタックの回数を考えてみてください。

一番少なくて2回、多い人は10回以上です。

わかりやすく1艇身(=4.5m)として計算してみて下さい。

練習不足で、仮にタックの成功率は30%、上マークまで6回タックしたとして、

今回のように、風上に向かうレグが3回であれば計18回タックすることとなります。

18回×70%=失敗は12.6回 1回につき2艇身(=9m)ロス→113.4mとなります。これをマークアプローチでの周りの艇との差としてイメージしてください。

団子状態であればよりイメージしやすいと思います。タラれば順位は何位上がりますか?

次に、トラベラーを使い、タック時にトラベラーが下側にダーッと流れた場合、当然艇のバランスは最悪、メインを引きクロスになるまで時間、横流れの量はどれくらいでしょうか。

1回で7~8艇身遅れたとしたら、リスクは5艇身分(22.5m)です。はたしてその後、トラベラーを使うことでリカバーできるでしょうか? 

疲れてきて同じ失敗を5回してもトラベラーを使う人がいますが、理解不能です。絶対にトラベラーは使うべきではありません。

逆に、トラベラーを使わないことでどれだけ遅れるのでしょうか?

皆さん、恐らくその点はあまり興味がないのではないでしょうか。

スナイプであればジブをつめて高さ重視で走るのも分かりますが、テーザーはスピード出してなんぼです。メインシーティングでスピードを出して、前のブローを取りに行きヘッダーでタックすればいいだけのこと。いつでもどんな状況でも高さを稼ぐ走り方をする必要はないわけです。しかもトラベラータックのリスクが大きすぎます。

繰り返しになりますが、せっかくの機会なので、皆さんにこれだけは言いたいのです。

「みなさんトラベラー教の信者になっていませんか?」

信じるか信じないかはあなた次第です。

以上